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--------------広島eマガジン VOL.1153 10.31-------------
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NZ発・吉岡春奈レポート
「Tomorrow
will be the same, but not as like
this」(前編)
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最近の読者の方に若干解説いたしますが、山口県立大3年の
吉岡春奈さんは現在ニュージーランドに留学中。そこから定期
的に原稿を書いてもらっています。久しぶりに届きました。長い
ので前編と後編に分けて(後編は11月3日の予定)に掲載いた
します。感想などは直接、彼女までメールをお願いします。
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(1)ショーインドー
のりのとれて角が少し脆くなった小さな紙切れに、
誰かがペンで何かを書き込んでいる。
インクが出ないのか、紙が柔らかすぎるのか、店員は苛立たしそ
うにあたしからその紙を引きちぎってエプロンのポケットに入れた。
すると、今度はその代わりにプラスチックの小さなカードをあたし
の革ひもに突き刺した。
カードからはさっき印刷されたであろう真新しいインクがショーイ
ンドーから入る夕日を弱く反射する。
黒く明朝体で刻まれた25,000という文字が赤い色で大きクロ
スアウトされ、その上に19,000と打ってある。
店員の手からはさっき休憩の時に吸ったのだろう、薄荷入りの
煙草の匂いがした。
奥の方で名を呼ばれた店員は、エプロンから出した鳥の羽を束
にしたブラシであたしをくすぐるのを止めて、踵を返す。
トイレの横にある狭い休憩所からは、上司の声が聞こえる。
「小山君札換えが終わったら帰っていいから。」
書類を忙しくまとめたりハイヒールが床を擦ったりする音は、
裏口の大きな鉄のドアが閉まる音の後にはもう無くなっていた。
夕日の光は一筋のラインになって、斜め45度の屈折の道をあ
たしに示す。
その道をよく見ると、小さくてフラッフィーな繊維や埃が店内に
うっすらとかかる暖房に反応し、踊っている。
あんた達。まるでその靴を履いたら、死ぬまで踊り続けなけれ
ばならないどこかの民話の少女のようね。
ショーインドーからあたしを覗き込む人間の顔は、いつもあたし
をうんざりさせる。
指を指し笑う人、わざわざ中に入ってはあたしを持ち上げ色々
眺め回した後、首を振る人、乱暴に扱う人…
でもね、大抵あたしを見る人は感嘆の声を漏らしたものよ。
あたしは最初、うっとりとなって彼等の言葉に聞き惚れたけれ
ど、彼等の扱いや言葉にそのうち臓腑が煮えかえるようにな
って、近頃では人が近づく度に獣のような叫び声が
口から出ようとするのを堪えなければならなくなった。
最近、意味の無い事の為に彷徨する人間が多すぎる。
(2)乞食
新宿の夜行バスの停車場わきの坂の下に、改札口から差し
込む薄明かりを浴びて男はぼんやりと立っていた。
午後7時頃だった。
ずんぐり重たくて、薄汚くて臭い羊の毛で編んだ40円でも
買わないわと思うようなセーターにぼろきれのようなガウン
を羽織り、大きい目をぐりっと回してその焦点の合わない
茶色の、黄ばんだヤニで縁取られたガラス玉の眼球にあ
たしを見つけた時、あたしは今まで感じていた全ての悪い
予感が形となり、目の前に現れるような気がした。
男の頭の中は混沌としていた。
飲みたい酒の飲めない苦しみが彼の中の最大の感情で、
それが彼の意志や感覚を麻痺させていた。
彼は大きなガラス張りのショーインドーの窪みに立つと、
いきなり羽織っていたガウンを路上に脱ぎ捨てた。
北風が吹いた時、彼の体の酸っぱい匂いも枯葉や埃と一緒
に歩行者の急ぎ足にからみつき、人々は嫌な顔をしたが
彼は焦点の定まらない目を魚のようにぎょろりと動かしただ
けで、しゃんと仁王立ちするように努めた。
彼の頭には幼い頃祖母がよく読み聞かせてくれた『忠犬ハ
チ公』の挿絵がイメージされていたが、
通りすがる人の目には彼はただの醜い乞食だった。
人々は分度器で測った位正確に、180度正確に男を避けて
歩くことができた。
男は後ろをちらりと見やると、ショーインドーの中には美しい
馬の皮で作ったブーツが目に映った。
…眺めていたのが一瞬か、30分かは男には見当もつかない。
男は再び、ぼんやりして立っている。身の回りは次第に闇に
包まれ、焦げ茶の空から落ちる雨が男の禿げた頭の真ん中
に当たる。次の瞬間、男は喉からガラガラ声を振り絞り、童
謡を歌い始めた。
雨(あめ) 雨 ふれ ふれ かあさんが
じゃの目(め)でおむかえ うれしいな
ピッチピッチ チャプチャプ ランランラン*
まだ男のガウンの中には50円も入っていない。
[注]
*1『雨ふり』作詞 北原白秋 作曲 中山晋平
●吉岡 春奈●
NZで日本語教師の助手をしている。
1ヶ月後に帰国予定。山口県立大3年
haruna36@paradise.net.nz
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船崎賀秀 GASYU
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